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株式会社 印傳屋上原勇七 上原社長との対談

未来を語る【You More対談】

 

株式会社 印傳屋上原勇七

代表取締役社長  上原 勇七

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一般社団法人 甲府青年会議所

理事長  東原 広幸

 

「『伝統と革新』の先に」

 

 

一般社団法人 甲府青年会議所(甲府JC)の東原広幸理事長が、山梨県内で活躍する各界トップと地域の未来を語る「You More対談」。

 

第二弾は、山梨県が誇る伝統工芸を守り続けるとともに発展させてきた株式会社 印傳屋上原勇七の上原勇七社長と対談を行いました。

 

鹿革に模様をつける革工芸の「甲州印伝」。天正 10年(1582年)創業の印傳屋上原勇七は、独自の技法を守りながら新たな製品開発を続け、どの時代においても洒落者の粋な持ち物として愛好される商品を販売してきました。

 

十四代を襲名した上原勇七社長は、印伝とは何かを追い求めながら、地域の伝統文化として甲州印伝が継承される重要性と時代に合わせた変化の必要性を訴えています。

 

明るく豊かな社会の実現を目指して、企業ができることは何か、甲府JCが団体として個人としてできることは何か、伝統企業のトップである上原社長と青年世代の若きリーダーである東原理事長が語り合いました。

 

『伝統と革新』の先にみる未来の形とは-。

―――世界に一つの“金魚柄”甲州印伝

東原理事長:対談の冒頭にあたり、甲府JCの本年度事業であります「金魚柄甲州印伝デザインコンテスト」の開催に際して、印傳屋様の多大なるご協力に御礼を申し上げます。

甲府市の姉妹都市・奈良県大和郡山市の名産「金魚」と、伝統工芸「甲州印伝」を通して、地域の魅力を広く発信する機会として本事業を企画し、お陰様で多くの作品応募がありました。

9月例会に合わせて優秀作品の発表を行うとともに、最優秀賞のデザインを模したオリジナル巾着が受賞者に手渡されます。

 

上原社長:作品のサンプルが出来上がっています。

世界に一つしかないオリジナルの印伝柄になりましたので、受賞者の方々をはじめ、皆さんに喜んでもらえればと思います。

 

東原理事長:オンリーワンの作品が完成したことを本当に嬉しく思います。

表彰式には、最優秀作品をデザインした大和郡山市在住の高校生と家族の方々も山梨に来てくれることになっています。

印傳屋様のご協力のお陰で、素晴らしい事業になりました。ありがとうございました。

 

 

―――郷土が誇る伝統工芸「甲州印伝」

東原理事長:山梨生まれの私は、名刺入れはもちろん、ベルトや財布、ハンコケース、手鏡にいたるまで昔から印傳屋様の商品を愛用しています。

お祝い事があれば印伝をプレゼントする機会が多く、甲府JCでも伝統的に新しい理事長に歴代理事長が印伝の巾着をプレゼントすることが継承されています。

古くから甲州に根付く「印伝」という伝統工芸は、いまや世界的なブランドとして確立されています。

印伝ブランドの認知度というものを上原社長は客観的にどのように認識されていますか。

 

上原社長:もともと印伝というのは、鎧兜(よろいかぶと)の時代に発祥し、当時は、兜の吹き替え部分や鎧のつなぎ部分など、現在と同じ使われた方ではありませんでした。

そこから時代の変遷とともに革羽織ですとか、煙管(きせる)の刻み莨入れですとか、作る技法は変わらなくても作るものが変わってきた歴史があります。

今では小銭入れからバッグまで大きい意味で「袋物」の商品をそろえていますが、我々の命題は、革工芸の文化を途絶えさせることなく、どのようにして後世に伝えていくのか。

伝統にあぐらをかいていれば、企業の経営は行き詰ってしまいます。

いかに時代の流れを読みながら、消費者ニーズをとらえられるような商品を提供できるのかが一番大事だと思っています。

印伝ブランドがどの位置にあるのかは、私が判断できる問題ではないですが、今日より明日、今年より来年、という意識を持って企業経営に向き合っています。

 

東原理事長:伝統を守り抜くだけではなく、それを一歩二歩と抜け出して進化させていくことを大事にしていると理解しました。

 

上原社長:明確なゴールはなくて、様々な取り組みを検証しながら、常に企業の発展を求め続けています。

一昨年に私が十四代「上原勇七」を襲名しましたが、時代の流れが早いので経営判断は難しいこともあります。

まずは地元に愛してもらえる印傳屋を目指し、その先に県内や海外へと目を向けて、少しでも展開していけるように取り組んでいます。

伝統的技法を大事にすることは大前提として、新しい発想を持って具現化していくことが大事です。

「伝統と革新」とよく言われますが、これを常に意識していかないと時代に置いて行かれてしまうと感じています。

 

―――442年の歴史の重みと「革新」する覚悟を持って経営に臨む

東原理事長:天正 10年(1582年)に創業した印傳屋様は、442年の長い歴史を誇ります。

上原社長にとって歴史と伝統を守るというのは、どういうことなのでしょうか。

 

上原社長:家業として受け継いでいるので、短期間の出来事に一喜一憂するのではなく、中長期的な考え方が大事だと思っています。

十四代の私が種をまいて、十五代で花を咲かすこともあるはずです。

長い歴史の一部を担わせてもらっているので、そのありがたさを感じながら、いかに歴史と伝統を後世にきちんと伝えていくのかを何より大事にしています。

 

東原理事長:県内にとどまらずに県外国外で店舗展開するトップとして、どのような企業理念を掲げ、強化していっているのでしょうか。

 

上原社長:私どもの企業理念というのは、人間尊重の事業経営です。

企業の経営資源で「人・物・金・情報」とよく言われます。

どれも企業にとっては必要なのでしょうが、順番を付けるのであれば「人」が一番だと思います。

機械化は進んでいますが、人がいるからこそ機械を使いこなせるわけです。

特に印傳屋の仕事は、まだまだ手作業の部分も多く、特別に専門学校があるわけでもないので、本当にゼロからスタートした新入社員が先輩に教えてもらいながら職人になっていく。

鹿革は柔らかさも厚さも違うので、一つ一つの作業を通じて自らが体得していくことが非常に大切で、教科書を読むようなことだけではなく、やはり現場で作業をすることによって自然に身についてくる技術です。

そういう意味で、社員のことを最も意識した経営を重視しています。

 

東原理事長:人的資源を大切にする経営の中で、「上原勇七」のブランド価値をどのように社員に伝えているのか、また、社内での意思疎通をどのように図っているのでしょうか。

 

上原社長:印傳屋ブランドをいかに強固なものにしていくのか、これは口で言うほど簡単なことではありません。メーカーですので売り方にしても販促の仕方にしてもあらゆる面の要素があって、努力の積み重ねで少しずつブランドを確立していくことになります。

積み重ねた信用を失うのは簡単ですが、ブランド価値を構築していくことは本当に時間のかかることです。

情報発信や社会貢献も含めて社員の皆さんと一緒に印傳屋ブランドを確立して、より良く強固なものにしていくことが結果的に企業の存続につながるはずです。

―――企業経営に必要な“会議のあり方”

東原理事長:上原社長が社員の皆さんに呼び掛けている言葉は、何かありますか。

 

上原社長:先ほどのブランド価値の構築に関する部分は、朝礼などでよく伝えています。

あとは、売り上げなどの数字に関する原因の追究は大事ですが、あまり短期的に物事を捉えないで中長期的な視点で判断するように呼び掛けています。

例えば、今日ご来店されたお客様が商品を買ってくれないからと丁寧ではない態度を取ったとすれば、また来てくれることはありません。目の前の事象だけでなく、先を見通して将来につながるような対応をしようと、営業担当にも工場担当にも色々なケースを想定して伝えています。

東原理事長:甲府青年会議所は名前のとおり、会議を経て色々な事業を行っています。

ただ、とにかくこの会議が非効率で長いと評価されることがあります。

仕事が午後6時に終わり、午後7時半から甲府商工会議所で会議を開く。昨日も割と短く終わると思いましたが、終わってみれば午後11時すぎ、ときには午前0時をまわることも多いです。以前には午前2時や3時も当たり前にありました。

上原社長が会社を経営する中で様々な会議があると思いますが、効率的に進めるために気を付けていることはありますか。

 

上原社長:私どもの会社では、毎朝、部門長や管理者が出席のもと、昨日までの売上状況や生産状況を発表してもらいます。

日中は会社にいないことが多いのですが、朝の30分間の会議はとても大事にしています。

問題はない方がいいですが、出てきた問題を素早く解決するためには、問題を先送りにしないで小さな芽のうちにきちんと対処をすることが必要です。

あとは問題解決と同時にどう反省して、次に生かすかが求められます。そのためにどうしなければいけないかを考える発展的な会議にしなければなりません。

色々な意見が出てきますが、会議の行司役として、議長として、議論が間違った方向にいかないように注意を払っています。

時間が長いことが決して悪いわけではないですが、未来志向の話をするべきです。

 

東原理事長:青年会議所の会議が長いのは、何よりも私どもの実力不足なのかなと感じるところもありますが、「明るく豊かな社会の実現」という主題に向かって議論しているのに、会議の中で気が付いたら重箱の隅をつつくような議論に終始していることもあります。ひどい場合は、1年間を通じて非効率な会議が続いてしまう。目標に向かってみんなで努力していければいいのに、どうしても些細な部分を取り上げるような議論になってしまうのが課題であります。

印傳屋様においては、社員の方々とより効率的な会議を行う秘訣はありますか。

 

上原社長:しっかりと話をするしかないと思います。

例えば、会議後に関係者だけを残して、中途半端に会議が終わらないようには気を付けています。問題が顕在化しているのに結論も出さずに議論を止めてしまうのは社員に対して失礼ですし、責任がない対応だと思います。

すべて解決するかは分からなくても問題に対してしっかりと向き合って、当事者たちが言いたいことを聞いてあげることが重要だと思います。

みんなが問題から目をそらせば、会社がよくなる訳はないです。情報が早いうちに対処するべきです。

―――“山の都”の魅力発信と発展に向けて

東原理事長:私は、甲府JCに入会して10年が経ちましたが、いつも感じることがあります。

これは甲府JCだけに限られたことではないのですが、各地の青年会議所が様々な活動を展開しているにもかかわらず、県民の皆さんにあまり活動が知られていないということです。

一方で、ネガティブなニュースに青年会議所が関わったときは大きく取り扱われる。時に世間から総叩き状態になることもあります。

地域社会にとってより良い活動をしている自負があるだけに苦々しく思うこともあり、どうやって組織のブランドイメージを高めることができるのか、広げていくためにはどうしたらいいのか思慮しています。

上原社長は、青年会議所に対してどのようなイメージをお持ちでしょうか。

 

上原社長:私自身が入会していなかったので一般論の話となりますが、40歳という卒業年齢を設けていることもあってロータリークラブやライオンズクラブとは違った側面があり、若い世代の経営者がフットワーク軽くフレッシュに行動しているイメージがあります。

自らの仕事を持ちながらの活動なので、仕事とのバランスが難しく、役割を受けた皆さんはジレンマを抱えていると思いますが、それぞれ豊かな発想を持って活動している姿は素晴らしいです。

 

東原理事長:あえて直言していただけるのであれば、上原社長が考える青年会議所の改善点やアドバイスはありますでしょうか。

 

上原社長:いい加減なアドバイスはできませんが、甲府JCは異業種の集まりでもあります。

同じ業界の情報交換も良いですが、異業種の方々が集まって議論ができるのはとてもいい環境だと感じます。

だからこそ、もう少し人数を増やす、集めることが大事になります。

今は、どこの経済団体も微減か現状維持ぐらいのところばかりですので、簡単な課題ではないですが、会員数の増加を目指してアピールしてほしいと思います。

ただ、強制的に入会しても長続きしないので、会の魅力を感じて入ってくれる人を増やすための魅力的な事業と広報が求められます。

東原理事長:ありがとうございます。

私ども甲府JCは“山の都”と呼ばれる甲府、中央、甲斐、昭和の3市1町を活動範囲としています。山梨県の中心である“山の都”について、上原社長はどのような発展を期待していますか。

 

上原社長:私の立場から大きなことは言えませんが、やはり山梨県が有する自然環境はどこにも負けない資産です。

県内には才能ある人材がそろった中小企業がたくさんあるので、この自然環境も活かしながらそれぞれの企業が切磋琢磨して力を発揮していければ山梨県はさらに発展できます。

山梨といえば果樹、ワイン、宝飾もあります。各分野の先人の方々の努力によって今の産業が存在しています。中小企業も大企業も特色を生かしながら、一緒になって山梨の魅力をトータルで発信することが求められています。

その中で、私どもの甲州印伝は地場産業として全て山梨で製作しています。小さい企業ですが、大消費地である東京に近いという地の利も活かして、外に打って出ることや攻めの姿勢も必要になります。大好きな県、大好きな市でありますから、少しでも企業の利益を上げて税金を多く払えるように、地元が良くなるように取り組んでいきたいと思います。山梨はもっともっと輝けます。

 

東原理事長:日本を代表する伝統産業の印傳屋様が私たちの身近に存在することを県民の一人として誇りに思います。

地域発展を目指す青年会議所に身を置く中で、自分たちの活動だけではなく、こうして印傳屋様はじめ各分野のリーダーと一緒に未来を語る対談ができるということに感謝しながら、広く山梨の魅力を発信できるよう今後とも取り組んでいきたいと思います。

これからもぜひご協力のほどよろしくお願いします。

 

上原社長:こちらこそ、よろしくお願いします。

 

―――ユーモア精神が地域社会を明るくする

東原理事長:最後に、今年の甲府JCのスローガンが「You More」なのですが、これは二つの意味があります。

あなたならもっとできるという意味の「You More」。もう一つは面白おかしくという意味の「ユーモア精神」。上原社長にとって、ユーモア精神を仕事などで活かすようなことはありますか。

 

上原社長:仕事場では、いつもしかめっ面していると思われているかもしれませんが、ユーモアも必要だと思います。ユーモアもセンスが必要だけど、良好な人間関係を築くためには非常に有効ですね。

会話をしていてもちょっとした一言で受け止め方が全然違う。相手の話をしっかりと聞いた上で、こちらから伝える一言にユーモアがあればさらに印象が変わってくると思います。

私は、ロータリークラブに所属していますが、先輩方がたくさん活躍しています。特に県外に本店を置く金融機関の支店長や支社長も多い。そこで皆さんからの刺激を受けることがあります。私は山梨県に長年住んでいるので、どうしてもどっぷり浸かってしまっているのですが、県外から赴任している皆さんは山梨県の良いところ悪いところを冷静に分析している。刺激になるし、多様な意見交換ができる貴重な機会です。

様々な方と交流できる場とすれば、青年会議所も同じだと思います。

多くの若きリーダーが、ユーモアを持ちながら切磋琢磨して地域を牽引してくれることを期待しています。

 

東原理事長:ありがとうございます。

本当に貴重な時間に感謝いたします。